データベース設計で重要な「正規化」。
効率的で冗長性の少ないデータベースを作成するための基本ですが、初めて学ぶ人には難解に感じられることもあります。
本記事では、正規化の目的やメリットを解説し、具体例を用いながら第1正規形から第3正規形までのステップをわかりやすく説明します。
この記事を読めば、正規化の基本をしっかり理解し、実践できるようになります!
正規化とは?その目的と重要性
データベースの正規化とは、データの整理整頓を行い、効率的で一貫性のあるデータベース構造を設計するプロセスです。
特に、大量のデータを扱うシステムでは、正規化を適切に行うことで以下のような問題を解決できます。
正規化の主な目的は、データの「重複」と「矛盾」を防ぎ、効率的なデータ管理を実現することです。
これにより、システムのパフォーマンスや可用性が向上し、長期的な運用コストも削減できます。
正規化で解決できる具体的な問題
例えば、小さな規模のテーブルでは冗長性を感じにくいかもしれませんが、企業規模でデータを扱う場合には深刻な問題となります。以下に簡単な例を挙げます。
例:顧客情報テーブル
顧客ID | 顧客名 | 商品名 | 商品価格 | 購入日 |
---|---|---|---|---|
001 | 山田太郎 | パソコン | 120,000 | 2023-12-01 |
002 | 田中花子 | スマホ | 80,000 | 2023-12-03 |
001 | 山田太郎 | スマホ | 80,000 | 2023-12-05 |
このテーブルでは、山田太郎さんの情報が繰り返し記載されています。これにより以下のような問題が発生します。
正規化を適用すれば、顧客情報と購入履歴を別々のテーブルに分割することで、こうした問題を解決できます。
正規化の重要性
正規化は特に以下のような状況で大きな効果を発揮します。
正規化を始める前に:データベース設計の基本
正規化をスムーズに理解し、活用するためには、データベース設計の基本を押さえておくことが重要です。
このセクションでは、データベース設計において最初に知っておきたい要素や考え方を説明します。
正規化は、設計の中の一部分に過ぎません。全体を把握することで、効率的かつ柔軟性の高いデータベースを作る土台ができます。
データベース設計の基本概念
データベース設計は、大きく以下のステップで進められます。
主キーと外部キーの役割
データベース設計の基本要素として、「主キー(Primary Key)」と「外部キー(Foreign Key)」の理解が欠かせません。
例:顧客テーブルと注文テーブル
顧客テーブル | 注文テーブル | |
---|---|---|
顧客ID(主キー) | 顧客名 | 注文ID(主キー) |
001 | 山田太郎 | 1001(注文ID) |
002 | 田中花子 | 顧客ID(外部キー) |
ここで、注文テーブルの「顧客ID」は顧客テーブルの「主キー」を参照する外部キーです。この関連性により、「どの顧客がどの注文をしたか」を簡単に追跡できます。
スキーマ設計の考慮事項
スキーマ設計とは、データベース全体の構造を計画する作業を指します。以下のポイントを考慮することで、実用的な設計が可能になります。
正規化準備としてのデータ整理
正規化に進む前に、以下の点を確認しましょう。
正規化の土台を作る
例えば、以下のような状況があるとしましょう。
例:非正規化の状態
顧客ID | 顧客名 | 商品名 | 商品カテゴリ | 購入日 |
---|---|---|---|---|
001 | 山田太郎 | パソコン | 電化製品 | 2023-12-01 |
002 | 田中花子 | スマホ | 電化製品 | 2023-12-03 |
001 | 山田太郎 | スマホ | 電化製品 | 2023-12-05 |
このテーブルでは、顧客情報や商品情報が繰り返されています。正規化を進める前に、各列がどのデータと依存関係にあるのかを整理することが必要です。
第1正規形(1NF)の手順と例
第1正規形(1NF)は、正規化の最初のステップです。
この段階では、データベース内の各テーブルを整理し、構造を改善します。1NFを適用することで、データがより扱いやすく、効率的になります。
第1正規形(1NF)とは?
第1正規形では、以下の条件を満たすようにテーブルを整理します。
これにより、データが「一意で」「明確」に管理される状態を作り出します。
1NFに正規化する手順
1NFへの変換は次の3つのステップで進めます。
実際の例で理解する
以下に非正規化の例を示します。このテーブルでは、顧客が購入した複数の商品名が一つのセルにリスト形式で記載されています。
非正規化のテーブル例
顧客ID | 顧客名 | 商品名 | 購入日 |
---|---|---|---|
001 | 山田太郎 | パソコン, スマホ | 2023-12-01, 2023-12-05 |
002 | 田中花子 | スマホ | 2023-12-03 |
1NFへの変換プロセス
1NFに変換後のテーブル
顧客ID | 顧客名 | 商品名 | 購入日 |
---|---|---|---|
001 | 山田太郎 | パソコン | 2023-12-01 |
001 | 山田太郎 | スマホ | 2023-12-05 |
002 | 田中花子 | スマホ | 2023-12-03 |
注文IDを追加した例
注文ID | 顧客ID | 顧客名 | 商品名 | 購入日 |
---|---|---|---|---|
1001 | 001 | 山田太郎 | パソコン | 2023-12-01 |
1002 | 001 | 山田太郎 | スマホ | 2023-12-05 |
1003 | 002 | 田中花子 | スマホ | 2023-12-03 |
1NFを適用するメリット
1NFを適用することで得られる主なメリットは次のとおりです。
第2正規形(2NF)の手順と例
第1正規形(1NF)でデータを整理した次のステップは、第2正規形(2NF)への変換です。
2NFは、データのさらなる効率化と整合性の向上を目指します。
特に、複合主キーを持つテーブルにおいて「部分関数従属」の問題を解消することが目的です。
第2正規形(2NF)とは?
2NFは、以下の条件を満たす必要があります。
部分関数従属の問題とは?
部分関数従属とは、複合主キーの「一部」にだけ依存する列が存在する状態を指します。この状態が続くと、以下の問題が発生します。
2NFに正規化する手順
2NFへの変換は以下の3ステップで進めます。
実際の例で理解する
以下に、1NFまで正規化されたテーブルを例として示します。このテーブルは、商品がどの店舗で販売されているかを記録しています。
1NFのテーブル例
店舗ID | 商品ID | 商品名 | 店舗名 |
---|---|---|---|
001 | A101 | パソコン | 東京店 |
001 | B202 | スマホ | 東京店 |
002 | A101 | パソコン | 大阪店 |
2NFに変換する
部分関数従属を解消するために、以下の手順を実施します。
店舗テーブル
店舗ID | 店舗名 |
---|---|
001 | 東京店 |
002 | 大阪店 |
商品テーブル
店舗ID | 商品ID | 商品名 |
---|---|---|
001 | A101 | パソコン |
001 | B202 | スマホ |
002 | A101 | パソコン |
2NFを適用するメリット
2NFにすることで以下のメリットが得られます。
第3正規形(3NF)の手順と例
第3正規形(3NF)は、データベース正規化の中でも重要なステップです。
1NFと2NFを満たした上で、さらにデータの整合性を高めるために「推移的関数従属」を取り除くことが目的です。
3NFを適用することで、冗長なデータをさらに減らし、更新時の一貫性を確保できます。
第3正規形(3NF)とは?
3NFを満たすためには、以下の条件を満たす必要があります。
推移的関数従属の問題とは?
推移的関数従属があると、以下の問題が発生します。
3NFに正規化する手順
以下の手順で3NFを適用します。
実際の例で理解する
以下に、2NFまで正規化されたテーブルを例として示します。このテーブルでは、従業員情報と部門情報が同じテーブルに含まれています。
2NFのテーブル例
従業員ID | 従業員名 | 部門ID | 部門名 | 部門所在地 |
---|---|---|---|---|
E001 | 山田太郎 | D101 | 営業部 | 東京 |
E002 | 田中花子 | D102 | 開発部 | 大阪 |
E003 | 鈴木一郎 | D101 | 営業部 | 東京 |
3NFへの変換
推移的関数従属を解消するために、以下の手順を実施します。
従業員テーブル
従業員ID | 従業員名 | 部門ID |
---|---|---|
E001 | 山田太郎 | D101 |
E002 | 田中花子 | D102 |
E003 | 鈴木一郎 | D101 |
部門テーブル
部門ID | 部門名 | 部門所在地 |
---|---|---|
D101 | 営業部 | 東京 |
D102 | 開発部 | 大阪 |
3NFを適用するメリット
3NFにすることで得られるメリットは次のとおりです。
正規化のメリットとデメリット
データベースの正規化は、設計を論理的に整理し、データの一貫性や効率を向上させるための重要な手法です。
しかし、すべての状況で正規化が最適というわけではありません。ここでは、正規化のメリットとデメリットを具体例を交えながら解説します。
正規化のメリット
正規化のメリットは以下。
データの冗長性が減少する
具体例
正規化前のテーブルで、同じ顧客の情報(名前や住所)が複数行に記録されていた場合、住所を変更する際にすべての行を修正しなければなりません。正規化後は顧客情報が独立したテーブルに分離されるため、1箇所を修正するだけで済みます。
データの整合性と一貫性が向上する
具体例
社員情報を管理するテーブルで、同じ社員の「所属部署」が異なる行で異なる値になっている場合、正規化により所属部署が別テーブルに分離されることで、このような矛盾が防止されます。
データ更新が簡単になる(更新異常の防止)
具体例
商品情報と仕入れ先情報が1つのテーブルにある場合、仕入れ先の住所を更新するたびに複数行を変更する必要があります。正規化により、仕入れ先情報が独立すれば、この問題は解消されます。
データ削除時の異常が防止される
具体例
注文履歴と顧客情報が同じテーブルに含まれている場合、注文データを削除すると顧客情報も失われる可能性があります。正規化により、これらのデータを独立させることで、誤った削除を防げます。
正規化のデメリット
正規化のデメリットは以下。
クエリの複雑化
具体例
商品情報を取得する際に、商品テーブル、仕入れ先テーブル、カテゴリテーブルの3つを結合しなければならない場合があります。結合が増えるほど、パフォーマンスが低下する可能性があります。
パフォーマンスの低下
解決策
高速なデータ取得が求められる場合、正規化を緩和して冗長性を許容する「逆正規化」や、頻繁に利用されるデータをキャッシュする方法が採用されます。
小規模システムでは過剰設計になる
具体例
社員が10人程度の社内用データベースでは、すべての正規化を行うよりも単一のテーブルで管理したほうがシンプルで実用的です。
正規化を実践する際の注意点
よくある質問(FAQ)
Q1: 正規化と非正規化の違いは何ですか?
A:
正規化と非正規化はデータベース設計において対照的なアプローチです。それぞれの特徴と使いどころを以下にまとめます。
- 正規化
- 目的: データの冗長性を減らし、整合性を高めること。
- 手法: テーブルを細分化し、関連データを別々のテーブルに分割します。
- メリット: データの一貫性が向上し、更新や削除時の異常を防止できます。
- デメリット: クエリが複雑化し、データ取得時のパフォーマンスが低下する場合があります。
- 非正規化
- 目的: データアクセスの速度向上やシステム全体のパフォーマンス向上。
- 手法: 正規化で分割したテーブルを再統合し、一部の冗長性を許容します。
- メリット: データ取得がシンプルで高速化されます。
- デメリット: 冗長性が増えるため、更新や削除時の一貫性を保つのが難しくなることがあります。
Q2: 正規化はどこまで行えば良いのですか?
A:
正規化の適用範囲は、システムの規模や目的によって異なります。一般的には、第3正規形(3NF)まで行えば、十分に冗長性を減らしつつ、実用的なデータ構造を構築できます。ただし、次のポイントを考慮して判断するのが重要です。
- システムの規模
- 小規模なシステムでは、第2正規形(2NF)程度で十分な場合があります。
- 大規模で複雑なシステムでは、第3正規形以上やボイスコットキー正規形(BCNF)の適用が求められることもあります。
- データ更新の頻度
- 更新が頻繁な場合は、正規化を進めてデータの一貫性を優先するべきです。
- 更新頻度が低く、読み取り速度が重要な場合は、正規化を緩めることも検討します。
- クエリのパフォーマンス
- 実運用でのデータアクセス速度をテストし、必要に応じて逆正規化で調整します。
Q3: 正規化の理解を深めるおすすめの参考書は?
A:
正規化の基本から応用までを学ぶためには、以下の参考書やリソースがおすすめです。
- 『リレーショナルデータベース入門』
著者: エルウッド・N・サターフィールド
正規化やデータベース設計の基本を学ぶのに最適な一冊。初心者から中級者向けの内容です。 - 『データベース実践講座』
著者: 佐藤翔太
実務での正規化やデータベース運用にフォーカスした実践的なガイドブックです。 - オンラインリソース: W3Schoolsのデータベースチュートリアル
正規化の基本概念が図解とともに簡潔に説明されています。実際の例を使った解説が充実しているため、初学者におすすめです。
まとめ
データベースの正規化は、効率的で整合性のある設計をするために不可欠なプロセスです。
本記事で紹介した手順と具体例を参考に、自身のデータベース設計に正規化を取り入れましょう!
次のステップとして、実践練習や高度な設計技術を学ぶことをおすすめします。
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